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2023 年 9 月 17 日
日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会委員
〇〇〇〇様
「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」(略称:大学フォーラム)
運営委員会
私ども大学フォーラムは、大学関係者51人のよびかけに基づき、大学の今と明日を考えるための議論を持続的に行なうための場として2019年2月に設立されました。
2020年10月に起こった日本学術会議の会員候補者6人の内閣総理大臣による任命見送り(任命拒否)問題の発生以来、「学術の中心」としての大学と深くかかわる日本学術会議のあり方についての議論に深い関心をもち、声明や見解を社会に発信してきました注1)。
岸田文雄首相は、日本学術会議に「国民に理解される存在」であることをくり返し求めています。日本学術会議に「国民に理解される存在」であることを求めるのであれば、日本学術会議のあり方をめぐる議論そのものが「国民に理解される」形で行なわれることが必要です。
日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会は、「日本学術会議に求められる機能及びそれにふさわしい組織形態の在り方」について検討するために設置され、「日本学術会議の見直しについては、これまでの経緯を踏まえ、国から独立した法人とする案等を俎上に載せて議論し、早期に結論を得る」(「経済財政運営と改革の基本方針 2023」)ものとされています。
しかし、日本学術会議はどのような社会的役割をはたすべきものかについての検討が不十分なまま議論が組織形態(設置形態)の問題に終始するならば、なぜその問題が問われなければならないのかということ自体が社会によって十分に理解されないままに終わることが危惧されます。
したがって大学フォーラムは、有識者懇談会における議論が、社会の注視のもとで開かれた形で行なわれるとともに、結論を急ぐことなく、幅広い視点からの議論が十分に重ねられることを強く希望します。
以上の観点から、すでに議論が進められてはおりますが、日本学術会議のあり方についての開かれた議論に資するために、以下のような質問をさせていただきますので、お答えくださいますようお願いいたします。
なお、この質問書は、当フォーラムのウェブサイトに掲載するとともにメディアや関心を持つ方々にもお知らせし、お答えも同所等において公表いたしますので、この旨申し添えます。
【質問】
- 内閣総理大臣による6人の会員候補者の任命拒否について、日本学術会議はこれを不当として任命を求め続けていますが、この問題についてどうお考えですか。
- 日本学術会議はナショナル・アカデミーが満たすべき5要件注2)を提起していますが、これについてどう考えますか。とりわけ、日本学術会議の独立性についてどのように理解されますか。
- 日本学術会議のあり方、とりわけ国の機関として存置するかどうかについては、総合科学技術会議「日本学術会議の在り方に関する専門調査会」の「日本学術会議の在り方について」の意見(2003年2月)、「日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議」の「日本学術会議の今後の展望について」の意見書(2015年3月)、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の有識者議員による「政策討議とりまとめ」(2022年1月)という議論の経緯があります注3)。これらは「有識者懇談会」の資料にもありますが、このような議論の経緯についてどうお考えですか。
- 日本学術会議は、「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」(2021年4月)にもとづいて、現行日本学術会議法を前提とした自主改革を実施してきました。これをどう評価しますか。もし、現行法を前提とした改革では不十分であるとするなら、それはなぜですか。
- 日本学術会議の位置づけは、日本の学術体制全体にかかわる問題です。この点で、「科学者の代表組織」としての日本学術会議と「科学技術政策の司令塔」とされる総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)との関係が重要だと思われますが、これをどうお考えですか。両者は「車の両輪」とされることがありますが、このようなとらえ方をどうお考えですか。
注1)
[声明]「任命を拒否された候補者を日本学術会議会員として速やかに任命することを求めます」(2020年10月7日)
[声明]「日本学術会議の独立性を否定する法改正の試みをただちに中止すべきである」(2023年1月7日)
[声明]「日本学術会議の独立性を否定する法改正の試みをただちに中止することを重ねて求める」(2023年4月9日)
[見解]「政府による『日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会』の設置について―内容的にも組織的にも開かれた場での熟議を」(2023年7月27日)
http://univforum.sakura.ne.jp/wordpress/statements/
注2)
「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」(日本学術会議、2021年4月22日)
<要件①>学術的に国を代表する機関としての地位
ⅰ)内外に対する代表機関であることの明記
ⅱ)国際学術団体への加入 3
<要件②>そのための公的資格の付与
ⅰ)組織に対する公的機能の付与
ⅱ)組織の構成員の選出に関する規定
<要件③>国家財政支出による安定した財政基盤
<要件④>活動面での政府からの独立
ⅰ)職務遂行に当たっての独立
ⅱ)内部管理の独立
ⅲ)内部規則制定権
<要件⑤>会員選考における自主性・独立性
ⅰ)会員の選考に当たっての自主性・独立性
ⅱ)会長の選考に当たっての自主性・独立性
注3)
総合科学技術会議「日本学術会議の在り方に関する専門調査会」の「日本学術会議の在り方について」の意見(2003年2月)は、「政策提言を政府に対しても制約なく行いうるなど中立性・独立性を確保したり、諸課題に機動的に対応して柔軟に組織や財政上の運営を行っていくためには、理念的には、国の行政組織の一部であるよりも、国から独立した法人格を有する組織であることがよりふさわしいのではないか」ということから、「最終的な理想像としては、国家的な設置根拠と財政基盤の保証を受けた独立の法人とすることが望ましい方向であると考えられる」としたうえで、「日本学術会議の設置形態の検討に当たっては、我が国社会や科学者コミュニティの状況等に照らして、直ちに法人とすることが適切であるか、なお慎重に検討する必要がある」とし、「当面は国の特別の機関の形態を維持する」とともに必要な法改正を行ない、主体的な改革を進めたうえで、「今回の改革後10年以内に、新たに日本学術会議の在り方を検討するための体制を整備して上記のような評価、検討を客観的に行い、その結果を踏まえ、在り方の検討を行うこととすべきである」と結論づけた。
これを受けて、内閣府特命担当大臣(科学技術政策)のもとに置かれた「日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議」の「日本学術会議の今後の展望について」の意見書(2015年3月)は、日本学術会議は、政府から独立性を保ちつつ、その見解が、政府や社会から一定の重みをもって受け取られるような位置付け、権限をもった組織であることが望ましい。また、日本学術会議の性格が、本質的には事業実施機関ではなく審議機関であることを踏まえると、安定的な運営を行うためには、国の予算措置により財政基盤が確保されることが必要と考えられる。これらの点を考慮すると、国の機関でありつつ法律上独立性が担保されており、かつ、政府に対して勧告を行う権限を有している現在の制度は、日本学術会議に期待される機能に照らして相応しいものであり、これを変える積極的な理由は見出しにくい。」とした。
これに対して、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の有識者議員による「政策討議とりまとめ」(2022年1月)は、「これまでの改革の際の議論等を踏まえても、緊急的課題や中長期的、俯瞰的分野横断的な課題に関する政策立案者等への時宜を得た科学的助言や社
会からの要請への対応という観点からは、現在の組織形態が最適なものであるという確証は得られていない」とした。
一方、日本学術会議は、2021年4月の総会において採択した「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」において、日本学術会議がナショナル・アカデミーとしてのより良い役割を発揮するためには、注2の5要件を満たすことが前提だとし、「我が国の学術と国家の関係の歴史的経緯、現状の国家行政機関や法人に関する法律の規定を考え合わせると、現在の国の機関としての形態は、日本学術会議がその役割を果たすのにふさわしいものであり、それを変更する積極的理由を見出すことは困難」、と主張している。